「執筆」を趣味にすること〜中高生に向けて〜

◇自己紹介
 わたしが小説を書き始めたのは中学生のときでした。最初の動機はホームページ(当時はウェブサイト、なんて呼び方はしませんでした)を作りたいというもので、ではホームページのコンテンツとして何がふさわしいかと考えて、小説という結論に到りました。絵や音楽は作るのに専用のソフトが必要ですが、小説はウィンドウズ付属のメモ帳で書けてしまうからです。それに当時のネット社会はまだまだテキストベースで、人が集まるサイトといえば文章を売り物にしているサイトが多かったのです。
 小説を書こうと決めてわたしが最初にやったことは、メモ帳を開くことでした。まずは書くことから始めました。もちろん、作文を書くことすら苦手としていたわたしがいきなり長編小説を書けるはずがないので、「練習」と銘打ち、拙い情景描写と説明だけの、ストーリーも何もない文章を最初に書きました。その、最初に書いた文章は今でも残っています。今読み返すと、作文に毛が生えた、赤面ものの文章ですが。
 わたしは現時点で、大きな新人賞には三回小説を投稿しています。そしていずれも一次選考で落とされています。編集部からいただいた評価シートには「読者のことをちゃんと意識するように」という指摘が書かれていました。つまりわたしの小説は趣味のレベルを出ておらず、とてもではありませんがプロの作家としてやっていけるものではありません。
 ですから、これから話すことは、あくまで趣味で小説を書く人間の話であり、本気でプロを目指しいらっしゃる方や、素人のたわごとなど聞いても仕方がないという方にはあまり実利のない話であります。

◇他の趣味と比べて
 わたしが趣味として小説を書いているから言うのですが、趣味としての執筆はとても良い選択だと思います。
 世の中にはたくさんの楽しいことがあって、そのどれを趣味として続けてもいいのですが、役に立ったり、実利につながればそれに越したことはありません。そういう意味では執筆は非常に優れた点をいくつも持っています。
 第一に、執筆は文章力を鍛えます。社会では必ずと言っていいほど文章を書く能力が求められます。これはほとんどの職業が、未だに情報のやりとりに文章を用いているからです。社会でなくとも、文章を書く機会はあります。たとえば大学では必ずと言っていいほど卒業論文を書くことになります。これは文系、理系を問いません。高校では小論文や、あるいはストレートに現代文という科目で文章力を求められます。それ以外にも、記述式の試験でも文章力をある程度求められることがあります。
 この点は執筆ならではの特長で、例えばサッカーをする能力や、楽器を演奏する能力や、絵を描く能力は、お金に変換するのがとても困難ですが、文章力は比較的お金に直結することが多いです。
 第二に、執筆にはお金がかかりません。極端なことを言えば、紙とペンさえあれば小説は書けてしまいます。パソコンがあるのならそれを使うのがいいでしょう。携帯電話を使う手もあります。また、執筆はひとりで行うことが出来ます。場所も選びません。紙とペンか、パソコンさえあればいいのですから。直接文章を書くことができなくても、どんな小説を書こうかとストーリーを考えることはできます。
 例えば他の趣味では、音楽をやるには高い楽器を揃える必要があり、野球をするには場所とチームメイトが、絵を描くには機材を揃えるのにそれなりのお金がかかります。大人であればその程度のお金は簡単に出せるでしょうが、学生の身分ではなかなか出せるものではありません。
 第三に、小説を読むのが楽しくなります。自分で小説を書いてみることで、物語の構成や、伏線、文章など、普通の人が意識しないポイントにまで目が行くようになり、より様々な面で小説を評価することができます。本を読むことが、他の趣味と比べて比較的行ないやすいことも有利な点でしょう。読書はお金もかからず、人に迷惑もかからないので電車の中で行うことができます。
 もうひとつの小さな理由として、小説を書いている人間が少ない、ということがあります。つまり、希少性の面から、趣味を執筆とすることでステータスとなる場合があります。個人的な体験から言えば、自分の趣味は小説を書くことだと言った場合大抵の人は驚きますし、二言目には「すごい」と言います。
 もちろんその人の置かれている環境によって希少性は変わるでしょうが、期待値としては小説を書く人間と遭遇する確率は非常に低いのではないかと思います。

◇結局
 しかしながら趣味というのは、しょせん楽しむためのものですから、メリットとかデメリットとか考えながらやるのは趣味とは呼べないでしょう。
 ですが、この文章が、これを読んでいるあなたが小説を書き始めるほんの小さなきっかけになってくれたら嬉しく思います。
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