「破滅の時間まで」あとがき

 GA文庫大賞というライトノベルの新人賞に2010年に投稿したライトノベルです。
 ライトノベルです。
 ……ライトノベルです?

 いや、コンセプトの段階では間違いなくライトノベルだったのですが、一体どうしてこうなってしまったのか……。
 作話の方法としては、ミステリー的な謎解きを主軸としてライトノベル的な設定、味付けを行って書きました。完成したのは全然ライトノベルじゃない何かになってしまいましたが(汗
 しかし作者の意識としては「ライトノベル」という点は非常に重大なものとして扱われていたんですよね。いやむしろ、ライトノベルであるということを意識するあまり、ライトノベルのアンチテーゼを書いてしまったというのが真相です。

 従来のライトノベルの構造のひとつとして「主人公の非日常での活躍」の成果として、日常へ帰還してからの「主人公の日常の問題の解決」につなげるというのがありますよね。つまり「非日常」での活躍と「日常」での活躍を重ね合わせるわけです。
 しかしながら現実はまったくそのようにはできておらず――例えばある人がどんなに仕事をがんばったとしても家庭の問題は解決できないし、どんなに家庭が円満だったとしても、学校でいじめられていたとして、それが解決するわけではないのです。
 本作では「街の平和を守る」という非日常の活躍をした主人公が、非日常から日常に帰ってきても、相変わらず地獄のような日常がずっと続いているわけです。つまり主人公にとっての非日常は散々な日常の代償行為でしかないのです。だから彼の問題を解決するためには、非日常ではなく、日常の中にある問題と向きあわなければならないのです。
 というわけで本作は「ライトノベル」でありながらも徹底的に「非ライトノベル」であるという、実に倒錯した作品になってしまいました。

 本作のエピローグをどうするかは最後まで悩みました。拓也がいじめっこたちをぶん殴って終わる、という結末も考えなかったわけではなかったのですが、どうしても、そういう安直な終わりにはできませんでした。それはこの物語の理念に相応しくないですし、この結末はこうなるべくしてこうなったのではないかと、物語の始まりの時点でこれ以外の着地点はあり得なかったのではないかと思っています。

 まあそのお陰で評価は散々でしたがね……。
 例えば本作を投稿したGA文庫編集部には「読者を意識していない」というかなりクリティカルな指摘を受けましたし、本作を読んだ方々からも概ね批判的な意見をいただきました。特に多かったのは「あの結末はない」という意見で、書き終えた直後はそれに対する反論もあったのですが、今にして思うと、確かにこんなものを読まされたら不愉快になるだろうなあと反省することしきりです。「人の寿命が見える主人公」から組み立てたストーリーライン自体は悪くないと思ってるんですけど……どうですか?


沢渡拓也
 主人公。地味なぼやきキャラというのはライトノベルの主人公としてはありふれているくらいですが、このキャラに関しては物語中で本当に何もやらないのが問題でした。「主人公が結局何もしていない」というのもGA文庫編集部からいただいた批評です。
 ブログでも書きましたが、主人公をもっと強烈なキャラにしてしまうのも「ライトノベルっぽさ」を出すのに有効な手段だったのではないか、と思います。

榎丸りく
 主人公の同級生。
 重要そうなキャラに見せかけて結局ほとんど出てこなかったというひどい肩透かしだったと思います(汗
 せっかく用意したライトノベル的な素材をことごとく捨てている、まさに本作を象徴するかのようなキャラクターです。

桐田夏雄
 脱サラした正義の味方。
 美人な女の人にすればそれなりに映えたのではないか、という指摘を友人からいただきました。まさにそのとおりですが、ラストの後味は美女では出せなかったのではないかと思っています。

リュカ・ドーマン
 本名は堂真柳華。自称宇宙人。喋り方に特徴あり。
 重要そうなキャラに見せかけて結局途中から姿を消したキャラ。まあこの人が物語に与えた影響は非常に大きいですけどね。

琴浦
 ラスボス。主人公とは何の因縁もない――というよりも主人公自体が完全に因縁から外されているわけですが。
 どんなキャラクターだったのかまったく印象に残ってないですねえ(汗
 彼の台詞は書いていて楽しかったような気もしますが。

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