「霧の館の凱旋」あとがき

 満を持して(?)書かれたメルトダウン如月シリーズ第三弾。
 たったひとつのアイデアをもとに書かれた一撃必殺の威力に期待した一作で、そういう意味では前作「密室にデュラハン」とは正反対の状況で書かれた作品です。前作について「オチが丸わかり」と言われたリベンジに、まったくオチの分からないものを書こうと目論んだ結果でもあります。

 いかに直接的な表現をせずに昔っぽい描写ができるか、という点に苦心しました。特に第一章は、カタカナをなるべく使わないようにしたり、主人公の語りを短く力強くするなどの工夫を重ねました。
 かなりの自信作……なのですが、評判はそれほどでも、という感じです。最後の超展開の連打についていけるかどうか、が分かれ目でしょうか。真面目な推理小説を期待している方には期待はずれだろうという気がしています。まさにこれはバカミスであろうと思います。

 また最後のどんでん返しについては、実は当初から予定していたものではなくて、第一稿を修正しているときに突如ひらめいて書き加えたものであります。というよりも、第一稿に書いていた矛盾した描写を伏線として転用した、というのが正しい表現です(暗幕の裏にある窓の鍵や、蔵を覗いていたときの描写など)。つまり自分ではまったく意識せずに書いていた描写が実は真相を指し示すための証拠になっていたことに、作者のわたし自身があとで読み返していて気づいたというわけです。この最後のどんでん返しを思いついたときは運命の存在を感じずにはいられませんでした。良い執筆体験には多かれ少なかれ運命の存在を感じる機会がある、というのがわたしの経験則でもあります。


 物語の語り手。来根美代子。もしくは天ヶ崎美咲。
 微妙な性別詐称叙述トリックが仕掛けられていました。これは、さすがに霧の館にまつわる謎だけで本編を引っ張り続けるのが難しそうなので、途中で読者を引っ張るための牽引が必要だということで導入しました。

霧坂友音
 霧坂家の女主人。
 基本的に本作は、個々のキャラクターの性格はほぼアドリブで書いています。なので執筆を中断するたびにキャラクターがぶれてしまいそうになり、その都度前の描写を読みなおしてキャラクターを思い出す、という作業をしなければなりませんでした。
 割と書きやすかったキャラクターだったと記憶しています。

霧坂千秀
 友音の夫。
 ほとんど出番はありませんが……。かなり不憫な人ですよね。
 彼のような攻撃的な人というのは、私が苦手としているキャラクターのひとつです。

霧坂雛夜
 長女。
 典型的お嬢様口調。高飛車で高圧的。書いていて楽しいですね。実は一番の萌えキャラではないかと思っています。

霧坂思織
 次女。
 重大な出来事だと思わせておいて実はすっごくくだらない真相、というのは以前も使った手でした。拍子抜けする真相というのは書いていて楽しいですね。さも重要そうにあおればあおるほどくだらなさが引き立ちます。
 プロットには一言「豪快」と書いてありますが、難しい……。

霧坂花香
 三女。
 人見知りな性格。他の姉妹との書き分けは問題なかったのですが、むしろ主人公の「私」と言動が被って仕方がなかったです。多分、花香と「私」と誰かが一緒に喋っていると、どっちの台詞かわからなくなるんじゃないかと思います。本編ではなるべくそういうことにならないよう工夫したつもりです。

霧坂里理
 四女。
 無口で眼鏡。驚くべきことに如月の友人。無口なキャラクターというのは描写が難しいですね。とは言っても、自分の好きな分野に関しては饒舌になるので、完全な無口キャラクターというわけでもありません。「私」が記憶を取り戻してからの豹変っぷりが萌えポイントでしょうか。

泉貴穂
 メイド。妹の方。
 掘り下げ方にかなり無理があるな、というのは書いていて感じました。前半は良き理解者、後半は本当に影が薄くなってしまって……。物語の要請としては、とにかく千秀に関する証言さえしてもらえればそれで十分だったんですね。

メルトダウン如月
 探偵役。
 ほぼ最後に登場。如月が出てきてから物語の雰囲気が一変します。最後に如月のことを書いたのはずいぶん昔なので、キャラが若干変わっているような気がしないでもないですが……(汗

芝川真理紗
 如月の助手?
 シリーズでは語り手だったわけで、本作では初めて真理紗の姿が客観的に描写されています。一回やってみたかったんですよねー。真理紗本人が思っている以上に彼女は特徴的な(変な)人ですよ。

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