「裁くのは彼女」あとがき
鮎川哲也賞に出した長編推理小説。ノンシリーズ。授賞していたらサーガにするつもりでしたが、捕らぬ狸の皮算用で終わりました。
わたしにしてはかなりの長編です。原稿用紙で500枚近くになります。
書き始めたのは五月で、書き終わったのが九月の末。で、一ヶ月かけて見直しをして締め切りの二日前に提出しました。
企画の段階で叙述トリックを使おうというのは決まっていました。しかし叙述トリックの条件として、ただ誤解させるような書き方をしました、というようなものではなくて、犯人当てや小説のテーマと乖離しないようなものにしよう、と考えていました。意外性と物語性を一致させることで、小説全体にまとまりを持たせることができますからね。
本作品で使われているトリックは年齢の錯誤と性別の錯誤なのですが、それ自体にはどちらも前例があるように思います。いちおうわたしなりに料理の仕方を工夫したつもりですが、鮎川哲也賞の審査員の方々には多少の付け焼き刃などまったく通用しなかったみたいで(汗
こうしてトリックと構成は決まったのですが、そのあとで具体的なストーリーを作るところがまた大変でした。これまでの自作の反省点として、人間関係の動きがない、ということを感じていました。なので、本作は人間関係が複雑に絡み合った話にしたい、と考えていたのです。
印刷した人物設定評に色々と書き込んでいた記憶があります。ところが実際に書いてみると、甘噛みし合うような、ぬるい人間関係に終始してしまいましたが……。この点も今後の反省点としたいですね。
うーん、正直語ることがあまりない……。
あんまり新しいことはやってないのですよね。だから思い入れもあんまりない。とにかくそつなく手堅くまとめよう、全体のバランスと完成度を高めよう、と考えて書いていたので。だからこそ自分の持ち味が生かされず、中途半端な作品になってしまったのではないかと思います。
あとこの作品を自分の文脈の中で語るときはいつも「密室にデュラハン」のことを考えてしまいます。あちらは「まさかこんなめちゃくちゃな作品じゃ取れないだろう」と思っていた作品で賞をいただき、こちらは「これなら一次選考を通るだろう」と自惚れていたところを落とされて、書き方から評価にいたるまで真逆の存在なのです(まあ作品評価に関しては、どちらも商業レベルに満たない五十歩百歩ですが)。
もっと自分の情熱をぶちまけたような、そんな勢いが必要だったのではないか、と今となっては思っています。
笠木零時
主人公。一応現代と過去とで三人称と一人称になっているのですが、気がついたらどちらも主人公の一人語りのようになってしまいました。あんまり印象に残ってないですね。トリックの要請で作られた部分の多いキャラクター造形です。
そういえばわたしの書くミステリーには必ず職業が探偵の人物が出てきますね。実際の探偵が何をしているのか実はほとんど知らないので、作中の描写は想像だけで書いています(汗
壬生穂子
メイドで探偵役。いや、本作に限っては誰が探偵役なのか微妙なところですね……。それと関連して、最後の推理の場面が将棋の感想戦みたいになってしまったのが残念なところ。
探偵役というよりはヒロインですね。零時とはけっこうドライな感じです。過去と現代で、人間関係の湿度でコントラストを作れたらいいなあ、と考えていました。
赤織志摩
幼なじみで天才。さすがに犯人がバレバレすぎてこの点も失敗でした。
天才キャラの書き方でその作者の知能が分かると言われますが、まあつまり、わたしの知能というのはこのレベルです(汗)。イマドキの天才キャラにしてはあまりにもステレオタイプすぎて、読者の方々の想像の域を超えていなかったんじゃないかとドキドキしています。
作中では天才だともてはやされていますが、とてもそうは思えない…。過去の零時くんは恋で盲目になっていたという説が有力です(笑
姫塚鳴雨
手品師。面白キャラ。会話を書くのが楽しかったです。もうむちゃくちゃ。こういう何考えてるのかわからない感じのキャラが好きですね。何書いても許されるし(笑
彼女のやったくじびきの仕掛けはかなり頭が悪いですね。これについては解決編を書いているときにずっと思っていたんですが、他に上手いトリックを思いつかなかったのでそのまま押し通すことにしましたが……。さすがにバレるだろう、と。
鳩山柚亜
キャラ設定表にはツンデレと書いていた記憶があります(笑
鳴雨とコンビを組んでいます。当初の予定では鳴雨と柚亜のコンビと、翠と千歌流のコンビの、ボウガン打ち合いナイフ刺し合いの血みどろバトルロワイヤルにするつもりでしたが展開に無理があったので断念しています。
人間関係に流れを作るためとはいえ、彼女には少し無茶をさせすぎました……。現代編での扱いもイマイチですし。
桜宮翠
音楽家。だったっけ? 音楽家という設定をキャラ造形にほどんと生かしていないので実はそのあたりの設定がとっても曖昧です(汗
千歌流とのコンビはいいですね。まっすぐな千歌流と、実はどす黒い部分のある翠の組み合わせはすごく面白いと思います。
善条寺千歌流
翠の相方。相方、という表現がぴったりだと思います。
あとはボクっ娘。一人称がボクの女キャラを書いた記憶がないので、多分彼女が初めてのボクっ娘だと思います。
五人の中では一番幼いんじゃないかと思います。一番大人びているのは、志摩じゃなくて零時だと思いますけど。